Y-Classic こども青少年クラシック音楽普及プロジェクト:公演レポート《N響ほっとコンサートーオーケストラからの贈り物ー》


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 公演レポート◉                                 
N響ほっとコンサートオーケストラからの贈り物
2015年8月2日(日)公演

N響ならではの重厚かつ華麗なサウンドで、 
 映画音楽からクラシック音楽までを楽しむ  
                                          


映画音楽からクラシック音楽へ、興味をつなげる
NHK交響楽団が毎夏恒例で行っている人気の特別公演、「N響ほっとコンサートオーケストラからの贈り物」、今年も8月2日に、渋谷NHKホールで開催されました。今回のテーマは「LET’S ENJOY FILM MUSIC♪」。普段はクラシック音楽を専門とする伝統ある楽団、N響ならではの、華麗かつ重厚なサウンドで、映画音楽の名曲を楽しめるという贅沢な内容です。公演に対する期待の大きさは、3階席までびっしり埋まった客席の様子から一目瞭然です。
コンサート当日の流れ


 公演は、第1部と第2部の2部構成。第1部は、金管楽器で高らかに奏でられた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のメイン・テーマに始まり、「メリー・ポピンズ」「スター・ウォーズ」と、誰もが1度は聴いたことのある名曲が続きます。フリー・アナウンサーの平井理央さんの解説に、映画の有名なシーンが想起されます。指揮の山下一史さんや、コンサートマスターの篠崎史紀さんが、映画の公開当時に受けた衝撃を熱弁。「スター・ウォーズでは、宇宙船が宙を飛び回っているのに、紐が見えない!」(篠崎さん)と、ヒーローが空を飛ぶシーンでの当時の「常識」が覆された感激の体験談に、場内の大人は、大笑いしながらも、大きく頷き共感。次の曲への親しみが増すような和んだ空気が流れます。

伝統あるN響は、笑いを起こすだけに終わりません。「悪者なのにかっこいい!」というダース・ベイダーに魅了された篠崎さんのエピソードを引き継ぎ、山下さんが、映画の登場人物ごとにテーマソングがあることと、ワーグナーの作曲上の特徴との関連を説明されました。そこで、手元のプログラムに視線を落とすと、「スター・ウォーズ」は複数の曲を1つにまとめた「組曲」(ジョン・ウィリアムズ作曲)であることが記されています。演奏が「ダース・ベイダーのテーマ」に入ると、客席の親子が顔を見合わせて微笑んでいました。なるほど、当時映画を見ていない子どもまでもが、解説の助けを得て、テーマの聴き分けに夢中になったようです。

 休憩をはさみ、後半が始まります。第2部は、歌手のMay Jさんとのコラボレーションで、「アナと雪の女王」「レ・ミゼラブル」「タイタニック」と、比較的記憶に新しい映画やミュージカル音楽が並びます。白のドレスに身を包んだMay Jさんの熱唱に、子どもたちは前のめり、女の子の視線は釘付けです。

演奏会も終盤に近づき、最後の2曲は「ゴッドファーザー3」からマスカーニ作曲、歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より間奏曲と「ダイ・ハード2」からシベリウス作曲、交響詩《フィンランディア》が演奏されました。これらは、映画音楽として使われた既存のクラシック音楽です。このプログラム構成には、子どもたちや、普段クラシック音楽を聴く習慣のない人へのメッセージが隠れていたようです。「映画を通して曲に興味をもってみると、映画のために作曲された曲だと思っていた音楽が、本当はもともとあった曲だったり、オペラの中の曲だったりすることがわかるでしょう。映画からクラシック音楽にも興味を広げてほしいと思います」という山下さんの言葉に、今回の公演に込められた想いが凝縮されているように感じました。

アンコール曲は映画「E.T.」から《フライング・テーマ》。客席の1人1人が、それまでの演奏から映画音楽に潜む多様な魅力を知り、思い思いの聴き方で楽しんでいたことを、客席の柔らかな静寂が物語っていました。
会場内に設置されている持ち帰り自由な冊子


人気の「楽器体験コーナー」
なお、『ほっとコンサート』では例年、公演前後の時間に「楽器体験」のコーナーが設けられ、人気を集めています。 N響の団員を含めた専門家から楽器の手ほどきを受けられるとあって、この日も、各楽器コーナーには長い行列ができていました。「開場の1時間前から並びました。今年こそはチェロがやりたくて」こう語ってくださったのは、毎年この日を楽しみにしているという親子。本物の楽器を手に目を輝かせているのは、子どもだけではありません。「小さい頃、楽器を習えなくて。たまたまインターネットで見つけたら、私の方が興味をもってしまいました」と、子どもの頃からの憧れが叶った感動を伝えてくれました。N響サウンドを聴いた影響も大きかったようで、小学生の男の子は、「メリー・ポピンズで、ハープがかっこ良かったから!」と、体験を終えて興奮冷めやらぬまま、満面の笑みでコメントをくれました。

 楽器をもった団体は、大学の弦楽サークル仲間。「教育実習先にチラシが貼ってあるのを見て、みんなで面白そうだねって言って。楽器のリペアって、普段あまりしたことがないから。」中高生や大学生にとっては、このプロのリペアマンによる楽器診断も魅力的なお目当ての1つ。「オーケストラからの贈り物」と銘打たれた本公演。なるほど、1人1人が音楽に向ける興味や願いを、見る、聴く、触れる、知るなど、多様な角度から叶えてもらえる、まさに、みんなにとって贈り物となる演奏会でした。



主催:NHKNHK交響楽団
協賛:株式会社東芝
協力:株式会社グローバル/グローバル管楽器技術学院有志